Q2:なぜ人身売買が行われるのですか?

  • 送り出す側の要因

    これは一言では説明できません。
    よく「貧困」が原因だと言われますが、複雑に要因はからみあっていると考える方が適切です。
    一つの考え方として、以下のように人身売買被害者を送り出す国や地域(送り出す側)と、人身売買被害者を受け入れる国や地域(受け入れる側)に要因(人身売買の引き金)をわけて考えてみることができます。

    1.貧 困

    食べられないほどの貧しさ(絶対的な貧困と呼ばれます)を抱える状態、あるいは社会格差などで、より高い教育や望む職業を選ぶ機会が制限されている、あるいは得られていない状態(相対的な貧困と呼ばれます)にある人に、人身売買業者に出稼ぎを勧められ、人身売買されるようなケースがあります。

    2.戦争や政治腐敗

    戦争が終わって間もない国や地域、あるいは「開発途上」といわれる国や地域、また政治や行政が整ってない中で汚職が進み、わいろをもらった警察が人身売買を取り締まれず、人身売買を黙認してしまうことがあります。
    さらには戦争が起こっていたり、軍事政権が支配する国から逃がれる人々が、逃げる過程で人身売買されることもあります。

    ビルマからタイに多くの人々が入国してくる国境の情景 ©Tenohira

    3.社会開発のおくれ

    健康保険や年金など、世界には日本ではあたりまえである社会保障が、制度として整っていない国や地域もあります。そうしたエリアで家族の誰かが病気になり、高い医療費を必要としている家庭に人身売買業者が忍び寄り、都市や先進国に若い女性を出稼ぎさせることを勧め、実際の仕事を偽って人身売買するケースもあります。

    4.災害や環境破壊

    津波や震災の混乱の中で、孤児となった子どもが人身売買されたり、被災した人が生活する場所を失い、出稼ぎ先で人身売買されることもあります。あるいは、国や企業の森や山林の乱伐によって、生活環境を破壊された人々が、その地を出ざるを得なくなり、都市部に出る過程で人身売買されることもあります。

    5.つくられた性別の役割

    宗教や文化によって、女性が海外や都市部に出稼ぎすることをうながす国や地域、女性が家族への責任を果たす役割が求められる社会で、都市や海外に働きに出る過程で人身売買されるケースもあります。働きに出た女性に、稼いだ金を故郷にどれほど多く送金するかで、美徳が決まるというような考え方を持つ宗教や文化も、人身売買の引き金に影響を及ぼします。

    6.都市や先進国への憧れ

    都市や先進諸国の情報や映像をテレビやインターネットなどで見て、知り、あこがれを強く抱く人に人身売買業者が近寄るケースもあります。東欧ではモデルをめざす女性たちが募集され、だまされてヨーロッパに人身売買されるというケースもあります。また「何よりも稼ぐことがすべて」、「お金がすべてだ」というような拝金主義思想も影響を及ぼしていると言えます。

  • 受け入れる側の要因

    1.より安い労働力への需要
    日本には200万人を超える外国人が暮らしています。特に1980年代以降、日本の経済発展をめざして、安定したよりよい収入を求め、東南アジア、南アメリカ、南アジア等の南の国や地域から日本に働きにやって来た「ニューカマー」と呼ばれる人々がいます。日本ではバブル経済の中で安い労働力が求められました。経済発展の中で「第一次産業」と呼ばれるような農業や水産業、生産工業などを、海外から日本に働きにやって来た人々に担わせるというような、日本側の需要が大きくからんでいました。
    しかし一方で、受け入れ側の不備により、ビザが切れたり、違法なビザで入国させられたりした人々が不法に日本に滞在する「不法滞在化」を招き、22万人もの人々が不法滞在者として犯罪者扱いされているのも実情です。

    これらは、あくまで日本の状況ですが、人身売買被害者を受け入れる側の国や地域には、お金になるさまざまなものがあります。たとえば観光地であれば、観光産業の中でのセックスワーカーとして働かされる人もいます。バナナやオレンジを大量に生産する農園においては、その国や地域の人より、もっと貧しい国や地域から来た人々を空から化学薬品を散布するような労働に従事させます。東南アジアや中東、アフリカでは、金持ちの家で、家事労働に従事するために出稼ぎにきた人々を過酷な状況で働かせる国や地域もあります。

    その全てが、お金を中心に世界が回っているために、消費する側にとってより都合のよい安い労働力を求めることが原因にになっています。

    "成田空港の入国管理ゲートに貼られているポスター
    このポスターを見る限りでは、受け入れる側の問題は読み取れない。日本が移住労働者をどのように捉えているのかを克明に表す一例といえる ©Tenohira"

  • セックス産業の需要

    セックス産業の需要も受け入れ側の大きな要因です。日本の性産業は、3兆円とも10兆円とも言われています。あるデータでは、1990年代のGNI(国民総所得)の1%は性産業からのものであることが報告されています。しかし同時に、性産業は観光業やタクシー業、ホテル業、ネット産業と複雑に絡み合っています。さまざまな産業と影響し合って成り経っているため、そこからの収入は莫大なものであり、容易に「なくす」とか「根絶させる」という是非論で解決できないことは明確です。

    また人々の意識も大きく影響しています。
    たとえば、(独)国立女性教育会館が2007年に全国的な調査をした結果、10代~40代までの男性の約6割が、男性が性的サービスを買うのは「仕方がない」と答えています。女性の場合、約4割が「仕方がない」と答えています。発展途上国では外貨獲得の手段として、外国人観光客のために観光産業とセックス産業が結びつき、国やその地域の政策としてセックス産業を位置付けている場合もあります。

    "Kay Chernush for the U.S. State Department."

    ただ、同時に私たちが認識する必要があるのは、セックスワーカーとして性的サービスを「職業」と捉えて働いている人の存在や、セックスワーカーの健康や権利を守っていくためのセックスワーカーたちによる活動があることです。(例:SWASH) また、人身売買をなくすための活動が、ともすると、そうしたセックスワーカーの人々の権利や安全を奪う可能性も孕んでいることを認識する必要があります。セックスワーカーの声を捉えた本として、上のSWASHのメンバーらによって書かれた『風俗嬢意識調査』はとても参考になります。

    複雑に絡み合う要因を理解する

    宗教や文化によって、女性が海外や都市部に出稼ぎすることを促す国や地域、女性が家族への責任を果たす役割が求められる社会で、都市や海外に働きに出る過程で人身売買されるケースもあります。働きに出た女性に、稼いだ金を故郷にどれほど多く送金するかで、美徳が決まるというような考え方を持つ宗教や文化も、人身売買の引き金に影響を及ぼします。

    この他にも「グローバライゼーション」と言われる交通網やインターネット、航空技術の発達で簡単に国や地域を超えて、「人・モノ・カネ」が移動しやすくなったことも要因の一つとして大きいです。また、人身売買が自国にあると知りながら、法整備をせず、あいまいな取り組みのままである政策も人身売買の引き金です。これらすべてが絡み合って起こっているのが、人身売買です。是非論に走らず、この複雑さを丁寧に理解しながら、より深く視ていくことがとてもたいせつです。

より詳細の背景が知りたい方へ

book

book

シェルター・女たちの危機
人身売買からドメスティック・バイオレンスまで"みずら"の10年
2001年4月にDV防止法が成立した。この問題が社会の注目を集めるようになる前から、女たちの駆け込み寺となり、支援を続けてきた民間シェルター"みずら"の10年の軌跡を追い、シェルターの役割、そしてDV防止法が抱える課題を探る。

:特定非営利活動法人かながわ女のスペース"みずら"
価格
:¥1,800
出版社
:明石書店
URL
書籍詳細

book

book

「セックスワーカー」とは誰か 移住・性労働・人身取引の構造と経験「売買春は性奴隷制か性労働か」という二者択一論を排し、女性たちの「生きられた経験」に即して話を進めていく。ジェンダー(性別で分けられたつくられた社会的な役割)の間の格差と経済格差にもとづいて、グローバルな商業的性取引の理解を試みようとしている。売買春を考える上で、その当事者にあたる人々の声を丁寧につづる姿勢が新鮮である。

著者
:青山薫
価格
:¥3,800
出版社
:大月書店
URL
書籍詳細

book

book

タイからのたより-スナック「ママ」殺人事件のその後スナックの「ママ」殺害事件の被告人となったタイ人女性。彼女が新たな人生を歩み出すまでを細やかに見守りつづけた人々に向けて、彼女が拘置所内で綴った手記と服役後、故郷に帰った後を静かに紡いだものがたり。

:女性の人権カマラード
価格
:¥1,700
出版社
:(株)パンドラ
URL
書籍詳細

book

book

講座 人身売買―さまざまな実態と解決への道筋最前線で人身売買に取り組む講師陣を迎え、8回にわたり開催された連続講座の記録をまとめた一冊。「搾取を伴う、国境を越えた人の移動」としての人身売買について、それを生みだす構造に迫る。

:反差別国際運動 日本委員会
価格
:¥1,800
出版社
:解放出版社
URL
書籍詳細
ページトップへ

Powered By NPO法人てのひら・人身売買に立ち向かう会 〜人身売買を知らせ、人権をたいせつにする社会をつくるNGO〜

copyright 2011-2014 think-trafficking-project.