Q6:人身売買を社会からなくすには、どうしたらいいのでしょうか?いろいろな要因があるようで、なにから手をつけてよいのかわかりません。

  • 人身売買への取り組み

    とても難しい質問です。答えは決して一つではないと思います。なぜなら、本当にいろいろな要因があり、複雑に絡み合っているからです。何かを一つをすればなくなるというものではないのです。以下に、海外から日本への人身売買のケースを例に、人身売買が起こる前、被害現場、そして被害後という流れで、人身売買をなくすために取り組んでいる人や組織を書き出してみました。それぞれの時点でこれだけ多くの人や組織が関わっています。人身売買については、2000年以降ようやく取り組みが始められたばかりです。

  • 人身売買をされる前に

    上の絵にあるように、予防啓発や社会開発などの取り組みが必要になります。

    具体的には、外国に働きに行くことは決してよいことばかりではないということを伝えること、人身売買されたり、働きに行った場所でおびやかされた場合に、どこに駆け込めばよいか?など、ホットライン(救援ダイヤルの意)の情報提供も「予防啓発」に含まれます。例として、東南アジアのカンボジアという国のある村で、子どもの人身売買が多発する地域では、小学校の休みの期間に母親を集めて、子どもを都会に働きに行かせるとどのような危険があるかをわかりやすくビデオや紙芝居を使って伝える取り組みをNGOがしています。

    また「社会開発」としては、病気をわずらっている家族のために、家族の誰かが医療費を海外に稼ぎに行くのではなくて、毎月少しずつ保険料を払い、国が医療費の援助をし、社会保障を整備するといいった社会のしくみの見直しも含まれます。
    また、仕事をおこすこともそうです。"仕事をおこす"とは、産業をおこしたり、外国の大きな企業を誘致するようなことだけでなく、たとえば仕事がない村で、皆で少しずつお金を出し合って、組合をつくり、養殖で魚を育てたり、牛や豚を育てる、ジュースになるような果物を環境に配慮して育て、ブランディングし、適正な値段で売り、買いたたかれないように皆で助け合う、そうした「マイクロ・ファイナンス(小規模融資)」と言われるような仕事おこしも含まれます。

  • 人身売買されている時

    次に、人身売買されているときには、絵にもあるようなホットラインや大使館、警察の取り組みが重要になってきます。日本で人身売買が、それほど話題になっていなかった80年代から90年代には、NGOや外国人を支援する地域グループが弁護士と協力して、男性メンバーがお客にふんして買春バーに行き、そこで働かされている女性の意向を確認してから、救出するというような草の根的な取り組みがなされていました。しかし今では、民間団体と警察等が協力して、摘発し、強制的に働かされていたり、売春をさせられたりしている人の救出が行われています。

    また人身売買されないように、「水際で」とよく言われるのですが、入国管理局等が違法なパスポートやビザで入国していないか、入国する際に同伴してきた人はブローカーではないか等、入国審査を厳しくして、目を光らせるようになりました。

  • 人身売買から救出された後

    人身売買の現場から救出された後ですが、ここからがとてもたいせつなプロセスになります。それは、被害者が被害者として扱われるようにしなければならないからです。絵にあるように、まず、衣・食が安定して提供され、安全に寝たり過ごしたりできる場所が必要です。こういう場所を「シェルター」と呼びます。日本では、公的なシェルターは婦人相談所ですが、被害者が外国籍の女性の場合、通訳が必要ですし、食事も自分の出身国の食事を提供されるようなところの方が被害者にとって精神的にも肉体的にも回復につながりやすいと言われています。そうした丁寧なケアを提供できるのは、民間団体が運営する「民間女性シェルター」です。

    人身売買の被害者の保護と支援には、この場所の存在は欠かせません。被害者は女性でも男性でも子どもでも、皆、過酷な状況から逃れてきている人がほとんどです。着る物や住む場所は一般的なものであればよいですが、前述するように食べるものや精神的なケア、医療、そして自分の母語で支援を受けられる必要があります。民間女性シェルターはほとんど持ち出しに近いような形でそれらを整えるべく日夜取り組んでいます。海外で民間団体が運営している予算は外国からの援助も入りやすく、さまざまなケアや環境も整っている場所が多いです。

    私たちにできることは、このような場所に公的な援助がされるように、この分野に取り組む国会議員や政党を応援することや、一人ひとりが少しずつでも民間女性シェルターに寄付をすることや会員になることもできます。

  • 当事者が社会に再統合する時

    最後に、人身売買の悪循環を断つという段階です。日本に外国から人身売買された人たちの多くは、出身国への帰国を望む人が多いです。しかし、その帰国がその人を人身売買した人身売買業者によって阻まれたり、おびやかされたり、再び人身売買されたりしないように、安全な帰国を支援する必要があります。

    日本から帰国する場合には、外務省と国際移住機関(IOM)という国際機関が関わり、各国の大使館や民間団体、婦人相談所などと連携して帰国を支援しています。そして、タイの場合、バンコク空港に被害者が帰りつくと政府の担当者が迎え入れ、カウンセリングや今後どうしていきたいか等を丁寧に被害者との対話のなかで決めていきます。ここからは、被害者を指すことばを被害者ではなく、「当事者」ということばであらわしたいと思います。当事者にとって、ここからが大変な段階になります。

    被害という経験と傷に向かい合うだけでなく、人身売買された女性で強制売春をさせられていた人の場合、出身の村に帰って「売春婦」と言われ偏見を持たれたり、逆に外国や都会に働きに行ったのだから、お金を持っていると思われ、お金の工面をされたり、なかには働く場所がなくて、再び人身売買される、あるいは今度は自分が人身売買の被害者を管理する側に回り、日本に働きに来て、バーやスナックのママになるというケースもあります。

    こうした悪循環を断つために、当事者同士で集まり、語り合い、自分の経験を「自分たちの経験」とさせる中で、当事者で集まり、演劇で自分たちの経験を表現したり、ピアカウンセリング(仲間同士でお互いの話を聴くこと)をするグループや、小さな融資をし合って、仕事を皆でおこしたり、あるいは政府や国際機関が提供する就労トレーニングに参加するような取り組みもあります。

  • 暴力の木

    前のイメージのように、人身売買は「力」と「支配」という根が生み出した「暴力」という大きな木の枝の一つであると、私たちは捉えています。だから、それをなくそうとするとき、被害者を救済し、加害者を処罰することと同じくらい、人身売買につながりのある事象について、時間をかけて丁寧に見つめ、さまざまな意見を出し合い、話し合いを重ねていく必要があると思っています。

    同時に、私たちは誰もが、生きていく上で、自分よりもたまたま力のある人や大多数の意見(マジョリティ)に、翻弄されたり、コントロール(支配)される経験をしたことがあると思います。たとえば、いじめや差別を受ける、あるいはセクハラやパワハラなどの嫌がらせに合う、その構造は、上の暴力の木の根にある「力」と「支配」が存在するのではないでしょうか。人身売買も同じです。

    翻弄されたり、コントロールされたりするときに感じるつらさ。このつらい気持ちは、人身売買された経験を持つ当事者が感じるつらい気持ちとどこかで重なり合うのではないでしょうか。まったく同じではないけれど、自分にもある似たようなつらさや痛みを感じながら、人身売買の被害に遭った当事者の気持ちに寄り添おうとすること、それを「当事者性」と呼びます。

    人身売買をなくすために、意識レベルで、この当事者性と「力と支配」の構造を見つめることが不可欠だと、私たちは考えます。

より詳細の背景が知りたい方へ

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『からゆきさん 』(今村昌平傑作選 第三巻より)100年以上前に、日本から海外に人身売買された女性たち「からゆきさん」。その一人であるおキクの生涯に寄り添い、おキクが苦難を生き抜いた姿を、現地での本人への取材によって振返る。人身売買のその後を当事者がどう生きるのかについて、見つめた大作。

出演
:善道菊代
監督
:今村昌平
価格
:¥4,935
製作
:1970年
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作品詳細

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未来を写した子どもたちインド・カルカッタの売春窟に生まれた子どもたち。彼らは外の世界を知らず、夢を持つ事も許されない。ある日、子どもたちはカメラと出会い、自分たちに無限の未来と希望がある事を知る。大変な環境のなかでもたくましく生きる子どもたちの姿を描き、アートによって当事者のちからを引き出すというかかわりが大変興味深い。

監督
:ロス・カウフマン;ザナ・ブリスキ
価格
:¥5,040
製作
:1970年
URL
作品詳細
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